はじめに
製造業や設計の現場で頻繁に登場する「公差」という言葉。その中でも「幾何公差」と「寸法公差」は、図面を正しく理解し、精度の高い製品をつくるために欠かせない要素です。
しかし「寸法公差と幾何公差の違いがいまいち分からない」、「どちらを優先すべきかわからない」と悩む方も少なくありません。
この記事では、初心者にもわかりやすく、かつ実務で使えるレベルで、「幾何公差」と「寸法公差」の違いを徹底的に解説します。
「公差」とは何か?
「公差」とは、設計で指定した寸法や形状が、どの程度までの誤差を許容できるかを示す範囲のことです。
どんなに高精度な加工機を使ったとしても、誤差ゼロの製品を作ることは不可能なため、図面上で「この範囲内のズレならOK」というルール(合格点)を設けます。これが「公差」です。
寸法公差とは?—「大きさ」の誤差を制御する
寸法公差の定義
寸法公差(Dimensional Tolerance)とは、寸法値(長さ・直径・厚さなど)に対して許される誤差の範囲を指定するものです。
たとえば、「直径 50 ±0.1 mm」と記載された穴の場合、穴の直径が 49.9 mm以上 50.1 mm以下 であれば合格です。
寸法公差の主な種類
公差の種類 | 記号例 | 内容 |
---|---|---|
対称公差 | ±0.1 | 中心値から同じだけの誤差を許容 |
片側公差 | +0.0 / -0.2 | 一方向にのみ誤差を許容 |
IT等級 | IT7、IT8など | 国際規格(ISO)による標準化された精度区分 |
寸法公差の特徴
- 寸法の「大きさ」そのものに関する公差
- 加工精度の良し悪しを示す指標になりやすい
- 形や位置のズレは考慮しない
つまり、「どのくらいの大きさか」だけを管理するのが寸法公差です。
幾何公差とは?—「形・姿勢・位置」の誤差を制御する
幾何公差の定義
幾何公差(Geometric Tolerance)とは、部品の形状、姿勢、位置、振れなどの幾何学的な要素のズレを制御するための公差です。
たとえば、穴が少し斜めに加工されている、面がうねっている、中心がずれているといった場合、これらは寸法公差では管理できません。
そうした“形の狂い”を管理するために使うのが幾何公差です。
幾何公差の種類

寸法公差と幾何公差の違いを比較
比較項目 | 寸法公差 | 幾何公差 |
---|---|---|
管理対象 | 寸法の大きさ(長さ・直径など) | 形・姿勢・位置などの幾何要素 |
記号 | ±、IT等級 | ⊥、∥、◎などの幾何記号 |
目的 | 寸法のばらつきを管理 | 部品の形や組み合わせ精度を確保 |
表記方法 | 例:50 ±0.1 | 例:⊥ 0.05 A |
対象の物理的意味 | 「どれくらいの大きさか」 | 「どの方向にどれくらいズレているか」 |
主な使用箇所 | 長さ、厚さ、穴径など | 面、軸、中心、角度など |
寸法公差だけでは不十分な理由
寸法公差は便利ですが、部品の機能を完全には保証できません。
たとえば、図面上で穴の位置を「中心から20 mm ±0.1 mm」と指定しても、実際の加工では「穴が少し傾いている」「軸方向にずれている」ことがあります。
こうした空間的(3D的)な誤差は寸法公差では表せません。つまり、寸法公差だけでは「どの方向にズレているか」がわからないのです。
実務での使い分け方ガイド
状況 | 適用すべき公差 |
---|---|
部品の大きさだけ管理したい | 寸法公差 |
軸や穴の方向・位置関係を保証したい | 幾何公差 |
組立時にがたつきを防ぎたい | 幾何公差(特に位置度) |
外観寸法の精度を管理したい | 寸法公差 |
機能上、面や角度が重要な場合 | 幾何公差(姿勢公差) |
おわりに
設計や製造の精度を高めるためには、寸法公差と幾何公差を正しく理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。
- 寸法公差:大きさの許容範囲を管理
- 幾何公差:形状の精度を保証
この2つを適切に組み合わせることで、機能を満たしつつ、コストを最適化した設計が実現します。
特に、近年では3D CADや自動検査機の普及により、幾何公差の重要性がますます高まっています。
寸法公差と幾何公差を使いこなせば、設計者として一段上のレベルに到達できるでしょう。