はじめに
本書は、タイトルに「コンサル一年目」とありますが、実際にはコンサルティング会社の新人向けに限定された内容ではありません。
著者自身の外資系コンサルでの経験と、異業種で活躍する元コンサルのビジネスエリート複数人への取材に基づき、「新人時代に学び、現在も使えるスキル」を30項目に厳選して解説した書籍となっています。
そのため一年目の新入社員はもちろんのこと、20代の若手から30-40代の中堅社員まで幅広い年代の方々が読んでも、新しい学びがあることでしょう。
本書の構成は大きく以下の4章に分けられています。
- 第1章:コンサル流 “話す技術”
- 第2章:コンサル流 “思考術”
- 第3章:コンサル流 “デスクワーク術”
- 第4章:プロフェッショナル “ビジネスマインド”
「30項目」という形で多数のスキルが紹介されていますが、すべてをここで紹介することは難しいため、特に“キーとなるテーマ”に絞って紹介・解説をします。
”話す技術”
第1章では、「話す技術」と称して、主にコミュニケーション面でのスキルについて取り上げられています。
日本のビジネスパーソンが苦手としがちな「結論から話す」「論理的に伝える」「数字で語る」といったテーマから、意外と見落としされがちな「相手の期待値を把握する」といった項目まで紹介されています。
結論から話す
これは他のコミュニケーション法を解説した書籍でもよく強調されていることですが、本書でも「結論から話す」ことの重要性を改めて説いています。
多くの日本人は日本語の特性上、“起承転結”型で話す傾向があります。
一方でコンサルなど外資系企業では「Point → Reason → Example → Point(PREP法)」のように、結論を先に提示してから補足を加える型が使われます。
- Point:結論を言う
- Reason:理由を説明する
- Example:具体例を挙げる
- Point:結論を再度繰り返し、強調する
初めのうちはこのPREP法を意識してもなかなか「どれをPoint(結論)として話したらいいのか?」分からず、思いついたまま話してしまいがちです。
また、時には上司から言葉に詰まるような質問を受けることもあるでしょう。
そんなときは「少し考える時間をください」と正直に伝え、伝えるべきことを頭で整理してから話すようにしてもいいと著者は述べています。
数字で語る
またビジネスシーンにおいて相手に何かを伝えたいときは、数字を使って説明するということも強調されています。
その主張の背景には、急速に進むグローバル化があります。
昨今において英語力が大切なのは事実ではありますが、流暢な英語が話せることよりも、「簡単な英語」+「数字」で語れることの方が、グローバル環境においては仕事が進めやすいです。
また、日本人同士でのコミュニケーションにおいても、特に経験が浅いうちは、感情論より数字を根拠にした説明のほうが格段に相手に納得してもらいやすくなるでしょう。
相手の期待値を把握する
そして、この章の最後で紹介されている「相手の期待値を把握するべき」ということについても触れたいと思います。
これは、著者が「ビジネスをするうえで一番大切なもの」と強調していることでもあります。
ビジネスは常に相手(上司や顧客)がいて成り立つものです。
そのため、相手に貢献し、常に相手の期待値を超えていかなければなりません。
仮に仕事を作業としては完了させていても、相手が期待するものに達していなかったり、方向性が誤っていたりすると、そもそも無駄な労力に終わってしまう可能性が高くなります。
また、最悪の場合は二度と仕事を依頼されなくなってしまうこともあるでしょう。
では、それを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか?
それは、仕事を依頼された時点で「相手が何を期待しているのか」を明確に把握することです。
具体的に確認するポイントとしては以下の4つがあります。
- その仕事の背景や目的
- 具体的な仕事の成果イメージ
- クオリティ
- 優先順位や緊急度(もしくは納期)
この4つをきちんと押さえておけば、少なくとも相手の期待から大きく外れることはなくなります。
また、仮に依頼された仕事が失敗に終わってしまったとしても、仕事の目的さえ外さなければ、他の手段を提案したりしてリカバリーすることができます。
最後に補足ですが、この考えは何も仕事を指示される立場の方々にのみ当てはまる心得ではありません。
仕事を依頼する立場の方々も、この4つを明確にして部下や取引先へ仕事を依頼すれば、やり直しなどの無駄が発生するリスクを減らすことができます。
”思考術”
次に紹介されるのが「思考術」です。
ここでは「考え方を考える」「ロジックツリーを使いこなす」「雲雨傘で提案する」といった、仕事を進める上で欠かせない思考方法が多く紹介されています。
考え方を考える
「考え方を考える」とは一体どういうことでしょうか?
それは、いきなり作業に取りかかるのではなく、どのように進めたら求めている答えに辿り着けるのかという「アプローチ」「段取り」の部分を最初に考えるということです。
例えば製造業においても、製品はいきなりゼロから造るのではなく、まず図面を作成したり、工程設定をしたりします。
これと同じように、仕事においても「段取り」といった設計図のようなものを先に考える必要があります。
そして、もう一つ大切なことがあります。
それは、全体の段取りが作成できたら、一度そこで上司や関係者の合意を得てから、具体的な作業に落とし込むということです。
これらの手法のメリットは3つあります。
- 作業の全体像が見えるので、完成までのステップがイメージしやすく、安心感が生まれる
- 上司や関係者と「アプローチ」「段取り」についての合意を得ることで、後出しの要求や期待値外れによるやり直しがなくなる
- 事前に作業の難易度や作業時間の見積もりができるため、他の仕事とのバランスが取りやすくなる
先ほど紹介した「相手の期待値を把握する」ということと併せて意識することで、上司や顧客との良好なコミュニケーションも生まれ、仕事のやり直しやムダを格段に減らすことができるでしょう。
ロジックツリーを使いこなす
ロジックツリーの具体的な使い方については、また別途紹介をしたいと思いますが、簡単にひとことで言うと、「1つの大きな要素を、漏れなくダブりなく(MECE)分解して考える」ことができる思考ツールのことです。
本書ではロジックツリーを使いこなすメリットとして以下の4つを挙げています。
- 一生使える
- 全体が俯瞰できるようになる
- 捨てる能力が身につく
- 意思決定のスピードが上がる
雲雨傘で提案する
また、コンサルで提案を行う際によく用いられるフレームワークとして、「雲・雨・傘(事実→解釈→行動)」という考え方があります。
これは、以下の例え話に由来するものです。
- 「空に黒い雲が出ている=事実」
- 「だから雨が降りそうだ=解釈」
- 「傘を持っていく=行動」
相手に何かを提案する場合、この3つを全て揃えていないと、相手を納得させられる提案として成り立ちません。
事実だけを伝えられても「だから何?」となるでしょうし、行動だけを提案されても「なんで?」となるでしょう。
また解釈だけでは「ただの空想」と取り合ってもらえません。
- 客観的な事実
- 事実に基づく解釈
- 解釈から導きだされる行動
つまりこの3つを揃えられているかどうかは、提案の前のセルフチェックリストとしても活用できるのです。
”デスクワーク術”
そして3章で紹介されているのはデスクワーク術です。
ここでは議事録の書き方や、Powerpoint操作での資料作成方法など、実務を速く、かつ的確に進めるかにこだわったテクニックが多数紹介されています。
そのためこれらを習得すれば、以下のようなメリットがあるでしょう。
- 資料作成がすぐ終わる → 他のタスクに時間を回せる
- 伝わりやすいアウトプットを出せる → ムダなやり直しが少なく済む
- ツール(Excel/PowerPoint)を使いこなせる → 周囲との差別化になる
議事録書きをマスターする
会議の議事録を作成するというのは、コンサルに限らず、どこの会社でも若手の仕事の筆頭と言えるのではないでしょうか。
では議事録とはそもそも何なのか?そして具体的にどのような項目を書いたら良いのでしょうか?
議事録とは?
- 決定事項・確認事項を書き、関係者へ展開し、共通認識を持つためのもの
- そしてそれらを、後日の証拠として残すためのもの
議事録に折り込むべき項目
- 日時
- 場所
- 参加者
- アジェンダ(議題)
- 会議の中で決まったこと
- 逆に決まらなかったこと
- 次回までにやらなければいけないこと(確認事項など)
よくやってしまいがちな間違いとして、「誰々が○○と言った」「それに対して△△がこう言った」という具合に、会議の発言録を作成してしまうことが挙げられます。
しかし、ビジネスシーンにおいては先ほどの目的がある背景から、決定事項・確認事項などのみを記載することが望ましいです。
そのため、会議前にあらかじめ、見出しのみを書いたひな形のフォーマットのようなものを用意しておくと、当日の議事録作成がスムーズに行えるでしょう。
最強パワポ資料作成術
PowerPointの資料作成に関しても、本書ではコンサル流の作成ポイントが紹介されています。
具体的には以下のようなものがあります。
- 1スライド1メッセージ
1枚のスライドで伝えるメッセージを1つに絞ることで、読み手が迷子にならなくなる - 1スライドの構成は「根拠となる数字や事実」+「自分の解釈や主張」
主張と根拠をセットにすることで、論理的で分かりやすくなる - 最終アウトプットから逆算する
資料を作り始める前に「誰に」「何を伝え」「何を行動してほしいか」ストーリーを思い描くことで、内容にブレがなくなり、調べ直しやスライド作成やり直しのリスクを減らせる - テンプレートの活用
毎回レイアウトをゼロから作るのではなく、使いまわせるものはテンプレート化しておくことで、スピーディーに、かつ安定したクオリティの資料作成ができる
第3章「デスクワーク術」で紹介されているスキルは、特別な業界知識ではなく、 “誰でもすぐ実践できる汎用的な仕事力” です。
これらを習得すれば、あなたのデスクワークは“時間ばかりかかる苦しい作業”ではなく、“成果に繋がるアウトプット”になります。
結果として、上司や顧客からの信頼を得ることができ、次の挑戦機会が回ってくる、という好循環を作ることが可能になるのです。
”ビジネスマインド”
最終章では、ビジネスパーソンとして心得ておくべき姿勢(マインドセット)が紹介されています。
ここは「話す技術」「思考術」「デスクワーク術」を活用する土台とも言えます。
Value(価値)を出す
本書では全体を通して、仕事において最も大切なのは「相手にどう貢献できるか」「相手の期待値を超えられるか」だと強調されています。
それは言い換えると、自分がやりたいことではなく、相手が求めていることをするということです。
お金を会社(もしくはその源泉である顧客)からもらっている以上、自分主体の消費者目線ではなく、相手優先の生産者目線で仕事に取り組む必要があります。
スピードとクオリティを両立する
一般的には「スピードとクオリティの両立は難しい」というのが暗黙知ではないでしょうか。
しかし本書では、スピードとクオリティの両立は可能だと主張しています。
多くの人はきちんとしたものを完成させようとして、色々考え込んでしまいがちですが、同じクオリティのものを完成させる場合、まず「Quick&Dirty(早く汚く)」完成させ、そこから高速でPDCAサイクルを回して改善していく方が、結果的に「Slow&Beauty(遅く綺麗)」よりも早く完成させることができるのです。
まとめ
本書は『コンサル一年目』という言葉がタイトルにありますが、実際の内容は、社会人としてどんな仕事・どんな会社でも通用する、ベーシックスキルを身につけるための本になっています。
自身の職種・業界が何であっても、「話す技術」「思考術」「デスクワーク術」「ビジネスマインド」を体系的にトレーニングすることで、キャリアを築いていくことができるようになります。
今回は30のスキルを全て紹介することはできませんでしたが、本書では30スキルに対して「重要度・難易度」がそれぞれ記載されているため、まずは一度読んでみて、「重要度★★★・難易度★☆☆」のものから実際の仕事に取り入れてみるのもステップアップとして良いのではないでしょうか。
また、新入社員や若手社員だけでなく、キャリアを重ねた30代~40代の中間管理職の方々や、転職を考えている人にも、改めて仕事の本質を考え、自分の仕事のやり方を省みるきっかけとなる、おすすめの書籍となっています。


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