製造業において、生産性向上は企業の競争力を左右する最重要テーマのひとつです。その中心となるのが KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標) の設定です。
しかし、KPIは「数字が並んでいて難しそう」「よく聞くけど具体的に何を示しているのか分からない」という印象になりがちです。
本記事では、製造現場で特に重視される 稼働率、OEE、歩留まり、仕掛品量(WIP) を中心に、KPIの役割や意味を分かりやすく解説します。
これらの指標を理解しておくことで、現場改善の視点が身につき、生産性向上につながる行動が自然とできるようになります。
製造業におけるKPIとは? 目的と役割
KPIは、目標達成の度合いを客観的に把握するための指標です。
製造現場では、日々の改善活動や生産計画を合理的に進めるため「何を良くすべきか」を数値で明確に示す必要があります。
KPIを設定する目的
- 目標を定量化して、改善の方向性を明確にする
- 問題点を早期に特定し、改善アクションを取りやすくする
- 部門間で共通の指標を持ち、認識のズレをなくす
- 改善結果を見える化し、PDCAを回しやすくする
これらに慣れておくと、「どの数字が改善につながるのか」という視点を自然に身につけることができます。
重要指標①:稼働率
製造ラインや設備が、計画に対してどれだけ稼働できているかを示す代表指標です。
稼働率とは?
稼働率は下記の式で算出されます:
稼働率 = 稼働時間 ÷ 設備の予定稼働可能時間 × 100%
稼働率が重要な理由
- 設備をどれだけ有効に使えているかが分かる
- 設備の遊休時間から改善ポイントを見つけられる
- 生産計画の精度向上につながる
見るべきポイント
- 設備停止の理由(段取り替え、故障、材料待ち)
- 停止時間が長い工程が、全工程のボトルネックになっていないか
稼働率は改善活動の入口ともいえる指標です。まずは「なぜ止まっているのか」を追えるようになると、現場理解が一気に深まります。
重要指標②:OEE(総合設備効率)
稼働率よりもさらに一歩踏み込んだ、設備活用レベルを総合的に測る指標が OEE(Overall Equipment Effectiveness) です。
OEEの計算式
OEE = 稼働率 × 性能 × 品質 × 100%
OEEは3つの要素から構成されています。
- 稼働率(Availability)
- 性能(Performance):理論サイクルと比較した実際の生産速度
- 品質(Quality):良品率
OEEが重要な理由
- 設備のロス要因を網羅的に把握できる
- 生産性を底上げする優先改善ポイントが分かる
- 現場を全体最適化する視点が得られる
● 新入社員が押さえるべきOEEの見方
ポイント
- 稼働率だけ良くても、性能や品質が悪ければOEEは上がらない
- OEEが低い場合、どの因子がボトルネックかを確認する:「速度ロス」「不良ロス」など具体的な改善テーマが浮かびやすい
OEEは中級以上の改善活動で必ず使われるため、新入社員のうちから慣れておくと成長速度が格段に上がります。
重要指標③:歩留まり(良品率)
品質に関するKPIの代表が歩留まりです。
投入した原材料に対して、何%が出荷できる良品になったかを示す指標で、以下の計算式で求められます。
歩留まり = 良品数 ÷ 全製造数 × 100%
歩留まりが悪いと起こる問題
- 原材料のロスが増え、コスト悪化
- 生産計画の遅延
- 現場負荷の増大(手直し・再製造)
品質管理において最重要の指標といっても過言ではありません。
ポイント
- 不良の種類や発生原因を理解する
- 不良発生のタイミング(工程)を追う習慣をつける
- 測定方法や検査基準の意図を理解する
歩留まり改善は、現場のムダ削減やコスト改善に直結するため、品質に関わる部署でなくても理解必須です。
重要指標④:仕掛品量(WIP)
「仕掛品量(WIP:Work In Process)」は、生産ライン上に存在する未完了品の量を示します。
WIPとは何か?
- 完成していない途中状態(工程間)の半製品量
- 生産リードタイムの長さ を示す指標
WIPが悪化すると?
WIPが増える
→工程にムダや停滞がある
→リードタイムが長くなり、納期リスクが発生する
→品質問題の発見が遅れ、手戻りが増える
ポイント
- WIPが多い工程=ボトルネックになりやすい場所
- WIP削減は「見える化」と「流れ改善」の基本
- WIPが安定すると生産計画の精度が大幅に向上
WIPの少ないラインは「流れが良いライン」の証です。
KPIを運用するためのポイント
KPIは設定するだけでは意味がありません。
「気づき → 行動 → 改善」というサイクルにつなげることが重要です。
1.数字を“ただ見る”のではなく、“変化”を見る
- 前日・前週と比べてどうか
- 設備ごとの差は何か
- 異常値が出たときの要因は?
この習慣があるだけで、現場の理解度は格段に高まります。
2.原因を深掘りする癖をつける
KPIの低下は結果であって、原因ではありません。
例えば:
- 稼働率が低い→なぜ停止した?
- OEEの性能が低い→なぜ速度が上がらない?
- 歩留まりが悪化→どの工程で不良が増えた?
といったように真因を深掘りして改善することが重要です。
3.現場の“生の情報”を大切にする
数字だけ見ると机上の空論になりがちです。そのため、現場観察とKPI確認をセットにすると改善効果が高まります。
まとめ
今回紹介した「稼働率」「OEE」「歩留まり」「仕掛品量」は、製造業における改善活動の中心となる指標です。
この4つの指標をしっかり理解しておくことで、
- 生産性の改善ポイントが見えるようになる
- 現場の問題発見力が上がる
- 上司や先輩とのコミュニケーションが円滑になる
- 改善提案の質が高まる
といった大きなメリットがあります。
KPIは難しそうに見えますが、意味を理解すれば強力な武器になります。
現場を観察しながら指標の変化を追い、改善の視点を養うことで、生産性向上に貢献できるようになるでしょう。


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