鉄鋼材料は、JIS(日本産業規格)において数多くの種類が規定されていますが、大きく「普通鋼」と「特殊鋼」の2つに分類されます。
現場では「SS材」や「S45C」など記号で呼ばれることが多いため、それぞれの定義や境界線があやふやになっているケースも少なくありません。
本記事では、JISにおける規格番号を具体的に挙げながら、普通鋼と特殊鋼の決定的な違い、それぞれの用途や特性について解説します。

トヨタ系メーカー勤務10年。設計開発5年+営業5年の経験をもとに、製造業・自動車業界の基礎知識やトヨタ流の考え方を、新入社員の方々向けにも分かりやすく解説しています。
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普通鋼と特殊鋼の決定的な違い
結論から言うと、両者の最大の違いは「熱処理をして使うことを前提としているか」と「成分の保証範囲」にあります。
- 普通鋼:基本的に熱処理(焼入れ・焼戻し)を行わずに、そのままの状態で使用する鋼材。強度は保証されるが、各元素含有量の規定は緩い。
- 特殊鋼:熱処理を行って、硬度や靱性(粘り強さ)を向上させて使用する鋼材。または特殊な性能(耐食性など)を持たせた鋼材。各元素含有量が厳密に管理されている。
それでは、具体的な規格番号とともに詳細を見ていきましょう。
押さえておきたいポイント:
JISでは普通鋼に対しては、「JIS G 3xxx」と「G+3から始まる番号」が割り振られていますが、特殊鋼は「JIS G 4xxx」と「4から始まる番号」が振られています。そのため、規格番号のみでも「普通鋼」か「特殊鋼」か判別することが可能です。
普通鋼(Ordinary Steel)
普通鋼は、特別な合金元素を含まず、また熱処理を前提としない一般的な鋼材を指します。自動車業界のみではなく、建設、土木、一般的な機械部品のベースなど、最も広く使われています。
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代表的な鋼種・JIS規格としては以下があります。
① SS400(一般構造用圧延鋼材):JIS G 3101
特徴:最も代表的な普通鋼です。「400」は引張強さ(400N/mm²以上)を保証するという意味です。
ポイント:
SS400においてJISが規定している化学成分は、不純物であるリン(P)と硫黄(S)の上限のみです。炭素量(C)の規定がないため、ロットによって炭素量がバラつき、焼入れには不向きです。
② SPCC(冷間圧延鋼板):JIS G 3141
特徴:いわゆる「ミガキ」や「コールド」と呼ばれる薄板です。表面がつるつるして光沢があり、板厚の精度も非常に高いため、自動車のボディなど外から見える部分や、精密部品・ワッシャーなどに使われます。
ポイント:
加工性(曲げや絞り)に優れています。保証されているのは、引張強さ 270 N/mm²のみで、熱処理を行うことを想定している鋼材ではありません。
特殊鋼(Special Steel)
特殊鋼は、使用目的に応じて特定の元素(ニッケル、クロム、モリブデンなど)を添加したり、炭素量を厳密に調整している鋼材です。大きく「機械構造用鋼(炭素鋼&合金鋼)」「特殊用途鋼」「工具鋼」に分かれます。
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代表的な鋼種・JIS規格としては以下があります。
① S-C(機械構造用炭素鋼鋼材):JIS G 4051
特徴:
機械構造用鋼のうち、炭素鋼に分類されるもので、S○○Cの○○の部分は炭素含有量(0.○○%)を表しています。最もよく使用されるS45Cを例に挙げると、炭素量が0.45%前後(0.42〜0.48%)に厳密に規定されています。
用途:
普通鋼のSS400と異なり、炭素量が保証されているため、「焼入れ・焼戻し(調質)」や「浸炭焼入れ」といった熱処理が可能です。これにより、ギアやシャフトなど、強度・耐摩耗性が求められる重要部品に使用されます。
間違えやすいポイント:
S45Cは「炭素鋼」ですが、JISの分類上や流通上は、熱処理を前提とするため「特殊鋼」のカテゴリーで扱われます。
② SCM435(クロムモリブデン鋼鋼材):JIS G 4053
特徴:
先ほどの「S-C材(機械構造用炭素鋼)」は炭素含有量のみを規定していましたが、こちらはそれに加えて、他の金属元素であるクロム(Cr)とモリブデン(Mo)の添加量も規定されています。そのため、「機械構造用合金鋼」と呼ばれます。
用途:
S45Cよりも「焼入れ性」が良く、深くまで焼きが入ります。そのため、自動車のエンジン部品や高強度ボルトなど、非常に高い靭性と強度が求められる場所に使われます。
実務でのポイント:
通常の機械構造用合金鋼は「JIS G 4053」で規定されていますが、自動車部品においては「JIS G 4052:焼入性を保証した構造用鋼鋼材(鋼材記号の末尾にHが付く)」が主に使用されます。
「JIS G 4053」と「JIS G 4052」を比較すると、同一鋼種でも、焼入性を保証するため成分の規定レンジが少し異なります。
| 元素 | 元素名 | JIS G 4053 (SCM435) |
JIS G 4052 (SCM435H) |
違い |
|---|---|---|---|---|
| C | 炭素 | 0.33 ~ 0.38 | 0.32 ~ 0.39 | H鋼の方が範囲が広い |
| Si | ケイ素 | 0.15 ~ 0.35 | 0.15 ~ 0.35 | 同等 |
| Mn | マンガン | 0.60 ~ 0.90 | 0.55 ~ 0.95 | H鋼の方が範囲が広い |
| P | リン | 0.030 以下 | 0.030 以下 | 同等 |
| S | 硫黄 | 0.030 以下 | 0.030 以下 | 同等 |
| Cr | クロム | 0.90 ~ 1.20 | 0.85 ~ 1.25 | H鋼の方が範囲が広い |
| Mo | モリブデン | 0.15 ~ 0.30 | 0.15 ~ 0.35 | H鋼の方が範囲が広い |
| Cu | 銅 | 0.30 以下 | 0.30 以下 | 同等 |
| Ni | ニッケル | 0.25 以下 | 0.25 以下 | 同等 |
③ SUS304(ステンレス鋼):JIS G 4303 / 4304 / 4305
特徴:
SUS304は、クロム(18〜20%)とニッケル(8〜10.5%)を含む合金鋼で、ステンレス鋼という名前の通り、錆びにくさが最大の特徴の鋼材です。
用途:
耐食性と光沢(意匠性)があるため、マフラーなどの排気系部品や、モールなどのエクステリア部品に使われます。
補足:
JIS規格において、SUS材(ステンレス鋼)は3種類(G 4303 / 4304 / 4305)規定されていますが、これは「成分」ではなく「形状と製造プロセス」によって分類されています。そのため、材種名称が同一(例えば、SUS304など)であれば、各金属元素の含有量は同じです。
| 元素 | 記号 | 規格値(%) |
|---|---|---|
| 炭素 | C | 0.08 以下 |
| ケイ素 | Si | 1.00 以下 |
| マンガン | Mn | 2.00 以下 |
| リン | P | 0.045 以下 |
| 硫黄 | S | 0.030 以下 |
| ニッケル | Ni | 8.00 ~ 10.50 |
| クロム | Cr | 18.00 ~ 20.00 |
④合金工具鋼(SKD材):JIS G 4404
特徴:
金属をプレス成形したりするための「治具」や「金型」に使われる、非常に硬い鋼材で、「工具鋼」に分類されます。
用途:
合金工具鋼では、常温下でプレス金型として使用される「SKD11」と、高温下でアルミダイカスト用金型として使用される「SKD61」の2種類が、現在の主流です。
まとめ
普通鋼(SS400等)は、化学成分の規定はゆるく、その代わりに「強度」が保証されています。熱処理をすることは想定していないため、基本的にそのまま材料として使います。
特殊鋼(S45C、SCM等)は、「化学成分」が細かく規定されており、熱処理を行って目的の硬さや粘り強さを引き出して使うものです。
設計や材料選定を行う際は、「とにかく形になればいいカバー」なら普通鋼、「摩耗や衝撃に耐える駆動系部品」なら特殊鋼、といった使い分けが基本となります。
それぞれの特性を正しく理解し、適切な材料選定を行いましょう。
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