表面処理の基本③:前処理における洗浄の重要性

表面処理

製造現場において、金属部品・樹脂部品の性能を高めるために行われる「表面処理」。めっき、塗装、アルマイト、化成処理など、その種類は多岐にわたります。しかし、どれほど高度な表面処理を施したとしても、それが本来の機能を果たすかどうかは、前処理工程の「洗浄」がどれだけ適切に行われたかで大きく左右されます。

「洗浄はただ汚れを落とすだけの単純作業」という認識を持ちやすいですが、実際には表面処理の品質を決定づける“最重要工程”と言っても過言ではありません。本記事では、表面処理前の洗浄がなぜ重要なのか、どのような汚れが問題となり、適切な洗浄方法とは何かを、わかりやすく解説します。

表面処理前の洗浄が重要な理由

1.表面処理の密着性を左右する

表面処理は、素材の表面に「層」を形成することで機能を持たせます。

しかし、表面に油分やゴミが残っていると、その層が正しく密着せず、以下のような不良が発生します。

  • 密着不良(剥離・浮き)
    油分・汚れ・酸化皮膜などが残留し、めっき・塗装・化成処理の密着力が低下する。
  • ピンホール・ブリスター(膨れ)
    汚れや水分が処理後に膨張して微小な穴やふくれが発生する。
  • 変色・シミ(汚染による色むら)
    汚れが化学反応を阻害し、色調不良やシミとなって現れる。
  • めっきムラ・塗膜ムラ
    表面の濡れ不良や導電不良が生じ、膜厚が不均一になる。
  • 腐食の進行・早期発生
    汚染物質が腐食因子として作用し、処理後でも錆びやすくなる。
  • 外観不良(曇り、光沢不足)
    表面に残った油脂や微粒子が外観品質を低下させる。
  • クラック(微細割れ)
    不均一な表面状態が処理応力を大きくし、微小亀裂が生じやすくなる。
  • 硬度・耐摩耗性の低下
    表面処理膜が十分形成されず、性能が所定値に達しない。
  • 導電不良(電子部品など)
    汚れが残ることでめっきが薄くなり、導電性が低下する場合がある。

つまり、洗浄不良=密着不良=製品不良 につながるのです。

多くのメーカーで最も避けたい不良が「剥がれ」であり、その根本原因の多くが洗浄不十分によるものです。

2.薬品処理や表面改質が正しく働かない

表面処理前には脱脂、酸洗い、エッチングなどの処理を行います。

これらの工程では、素材の表面に直接化学反応を起こす必要があります。

そのため、もし汚れが残っていると…

  • 薬品が素材に届かず反応しない
  • 処理ムラが発生する
  • 部分的に反応が過剰になる

といった問題が起こります。

特に「油膜」は薬品反応を妨げる最大の敵です。

見た目で分からない薄い油膜が残るだけでも、後工程に大きな影響を及ぼします。

3.最終的な外観品質にも影響する

ユーザーにとって見た目は非常に重要です。

小さな異物でも塗装で隠せるわけではなく、以下のようにむしろ目立つことがあります。

  • 異物が残ったまま塗装→黒点・ブツが発生
  • 微細なゴミ→ザラつき・光沢不良
  • 指紋→染みや変色の原因

洗浄は外観品質の根本を作る工程と言えます。

表面処理前に除去すべき主な汚れ

洗浄の重要性を理解するためには、まず「どんな汚れを落とす必要があるのか」を把握することが大切です。

製造現場では以下のような汚れが発生します。

1.油脂・油分

  • 切削油
  • プレス油
  • 防錆油
  • 手の皮脂(指紋)

油分は最も厄介な汚れの1つで、特に焼き付き油や乾燥固着した油は強い洗浄が必要となります。

2.粉塵・微粒子

  • 金属粉
  • 研磨カス
  • 樹脂粉

小さな粉塵でも塗装やめっき時に異物として残り、不良の原因になります。

3.酸化被膜(スケール)・錆

酸化皮膜(スケール)や軽微な錆は、化学処理で除去する必要があります。

4.その他の汚れ

  • 水分(乾燥不良)
  • 人による汗や手垢
  • 樹脂製品の離型剤

場面によって汚れの原因は異なるため、工程に合った洗浄が必須です。

洗浄方法の種類と特徴

表面処理前に行われる洗浄方法にはいくつか種類があります。

それぞれのメリット・デメリットを理解することが大切です。

1.アルカリ洗浄(脱脂)

最も一般的な洗浄方法です。

特徴:

  • 油脂や油膜の除去に強い
  • 金属表面を傷めにくい
  • 標準化されており品質が安定しやすい

注意点:

  • 洗浄液の濃度管理が重要
  • 温度が低いと洗浄力が不足する
  • 放置すると洗剤焼けが起こる場合あり

2.酸洗い(脱スケール)

酸を使って錆や酸化膜を除去します。

特徴:

  • 金属の表面を均一に整える
  • 酸化皮膜の除去に最適

注意点:

  • 過剰な処理で素材を痛めることがある
  • 酸の種類によって用途が異なる
  • 換気や保護具が必須

3.超音波洗浄

超音波のキャビテーションで微細な汚れを落とす方法です。

特徴:

  • 手作業では落とせない細かい汚れに有効
  • 複雑な形状の部品に強い

注意点:

  • 油分が多い場合は単独では効果が弱い
  • 洗剤の種類と温度が重要

多くの場合、「脱脂→超音波洗浄」のセットで使用します。

4.溶剤洗浄(シンナー・アルコールなど)

速乾性が高く、油膜の除去力が強い方法です。

特徴:

  • 揮発性が高く乾燥が早い
  • 金属・樹脂問わず使用できる

注意点:

  • 引火性があるため管理が重要
  • 長時間作業には適さない

洗浄不良が引き起こす典型的なトラブル

現場では冒頭でも挙げたような以下のトラブルが頻発します。

  • 密着不良(剥離・浮き)
  • ピンホール・ブリスター(膨れ)
  • 変色・シミ(汚染による色むら)
  • めっきムラ・塗膜ムラ
  • 腐食の進行・早期発生
  • 外観不良(曇り、光沢不足)
  • クラック(微細割れ)
  • 硬度・耐摩耗性の低下
  • 導電不良(電子部品など)

いずれも製品クレームにつながる重大不良ですが、原因を追及すると、多くが洗浄不足・乾燥不良に行き着きます。

まとめ

表面処理前の洗浄は、単なる前準備ではありません。品質の60%以上は洗浄工程で決まると言われるほど、極めて重要なプロセスです。

  • 密着性の向上
  • 外観品質の安定
  • 薬品処理の効果発揮
  • 不良率の低減

など、製品の性能を最大限に引き出すための基礎工程が「洗浄」です。そのため、洗浄の役割を正しく理解し、日々の管理を徹底することが大切です。洗浄工程を制する者は、表面処理の品質を制すると言えるでしょう。

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