「TPS(Toyota Production System/トヨタ生産方式)」は、トヨタ自動車が長年の現場改善を通じて生み出した“世界最高レベルの生産管理手法”として知られています。現在では日本企業はもちろん、海外の製造業・サービス業にも広く取り入れられ、「最も効率的に価値を生み出す仕組み」として高く評価されています。
しかし、よく次のような疑問を耳にします。
「TPSって何から理解すればいいの?」 「難しそうでとっつきにくい…」 「カイゼンと何が違うの?」
そこで本記事では、初心者でも理解できるように、TPSの構造・目的・実践例まで徹底的にわかりやすく解説します。
最初に知るべきポイントを押さえれば、難しい専門知識がなくてもTPSの全体像を理解できます。
TPS(トヨタ生産方式)とは?まず押さえるべき基本概念
TPSとは、トヨタ自動車が長年の生産現場で蓄積してきた“ムリ・ムダ・ムラをなくして高品質・短納期・低コストを同時に達成するための仕組み”です。
TPSの中心となる考え方は以下の2つです。
ジャストインタイム(Just In Time)
これは、
- 必要なモノを
- 必要なときに
- 必要な量だけ
生産するという考え方です。
「在庫をたくさん持つほど損をする」という発想に基づき、ムダな仕掛品や在庫を排除します。
自働化(じどうか/Autonomation)
これは、
- 異常が起きたら自動的に停止する
- 問題を人が見逃さない仕組みを作る
という考え方です。
これにより、不良品の流出を防ぎ、品質を自工程で作り込むことができます。
なぜTPSが重要なのか?企業価値を高める3つの理由
①圧倒的なコスト削減が可能になる
TPSは“ムダの徹底排除”が目的です。
ムダが減れば、生産コストも自然と下がります。
特に新しい従業員が現場に配属されると、以下のようなムダに気づくかもしれません。
- 待ち時間が長い
- 在庫が積み上がっている
- 移動距離が無駄に長い
- 手待ちや二度手間が多い
こうしたムダを一つずつ改善することが、企業全体の利益向上につながります。
②品質が安定する
異常が起きたらラインが止まり、原因をその場で分析する。
これは「なぜなぜ分析」や「5S活動」などにも通じる部分です。
TPSには「不良品を後工程に流さない」という文化があり、この姿勢が品質の高さを生み出しています。
③社員の成長を促す仕組みがある
TPSで特徴的なのは「人を育てる仕組みが組み込まれている」こと。
誰でも改善に参加できるため、若手のうちから
- 問題発見力
- 仮説思考
- 改善提案能力
が鍛えられます。
生産現場だけでなく、事務部門・営業部門にも応用できるのがTPSの強みです。
ジャストインタイムとは?-”徹底したムダの排除”
ジャストインタイム(JIT)はTPSの代名詞とも言える概念で、基本原則は「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産・供給するということに集約されます。言い換えれば、徹底的に”ムダを省く”ということです。
それを踏まえ、ジャストインタイムを構成する代表的な原則は以下のようになっています。
①かんばんによる、”後工程引き取り”
- 生産は「後工程(次の工程)」の要求によって引き起こされる
- 在庫を抱えて先に作る“押し出し”(プッシュ方式)ではなく、後工程からの”引き取り”をトリガーに生産する(プル方式)
②”タクトタイム”と”平準化”での生産
- タクトタイムは、「何を、どれだけ、どのスピードで作るか」を決めたもの
- 顧客の必要数から、タクトタイムを計算し、それに合わせて生産を行うことで、過剰在庫を防ぐ
- 平準化生産とは、製品の種類と量を、生産期間を通じてできるだけ均等にならして生産すること
- 量の平準化:ある日は100台、次の日は500台という大きな変動を避け、300台×2日のように均一な量を生産する
- 種の平準化:生産する製品の「種類(モデル)」を、A, B, C, D…と、少量ずつ頻繁に切り替えて生産する(ミックス生産)
③一個流しによる、”流れ生産”
- 工程間の停滞や仕掛品在庫を最小化し、製品が淀みなく流れるラインを作る
- 不必要な待ち時間・運搬・滞留を削減する
④段取り時間の短縮による、”小ロット生産”
- 段取り替えを省力化・迅速化することで、小ロット生産を可能にする
- 小ロット生産では、必要数のみをこまめに生産するため、在庫削減と柔軟な生産が両立する
自働化とは?-”不良は後工程に流さない”
“自働化(autonomation)”は、単なる”自動化(automation)”とは違います。自動化しただけの設備は、少しの異常でも動き続けてしまうため、不良品の大量発生に繋がりかねません。
それを防ぐために、”自働化”は以下の状態を重視しています。
①異常時にラインが自動停止する
- 機械が異常を検知したら、その場で稼働が止まる
- これにより”不良を後工程に流さない”ことが徹底できる
②人が異常に気づく
- アンドン(表示灯)や音などといった、異常を知らせる仕組みがある
- ①と同様、”不良を後工程に流さない”ことに繋がる
③人が“付加価値を生む仕事”に集中できる
- 自働化により、機械の監視は”ムダな時間”に
- その削減できた時間で、他の付加価値を生む仕事に集中できる
まとめ
TPS(トヨタ生産方式)は決して難しい仕組みではありません。
その本質は次のたった2つです。
①ムダを徹底的に取り除くこと
②不良は後工程に流さない
このシンプルな原則をどの職種、強いてはどの業界でも応用できるのが、TPSの圧倒的な強みとなっています。


コメント