【保存版】JIS特殊鋼の規格一覧と種類|S45C・SCM・SK・SUS・SUP・SUJの用途を徹底解説

設計・材料技術

はじめに

今回は前回の「普通鋼」の解説記事の続編となります。

「モノづくりは、材料選びから始まる」と言われますが、自動車部品の設計において、最も頭を悩ませるのがこの材料選定ではないでしょうか。

特に「特殊鋼」の世界は非常に奥が深く、JIS規格のハンドブックを開くと、その種類の多さに圧倒されてしまうかもしれません。

悩める人
悩める人

「S45CとSCM440、どちらを使うべき?」
「図面に書かれている『H』という記号にはどんな意味があるの?」
「工具鋼やステンレスは、どう使い分ければいいの?」

実務の現場では、こうした疑問に直面する場面が多々あります。

そこで本記事では、自動車業界の現場で頻出する「6大カテゴリー(S-C材・合金鋼・工具鋼・ステンレス鋼・ばね鋼・軸受鋼)」に絞って情報を整理しました。

単なる規格の羅列ではなく、「なぜその材料がその部品に選ばれるのか?」という“用途”と“特性”にフォーカスして解説していますので、設計者の方はもちろん、購買や品質管理、生産技術に携わる方にとっても、手元に置いておきたい「保存版」の知識となるはずです。

それでは、日本のモノづくりを支える「特殊鋼」の世界を紐解いていきましょう。

この記事を書いた人
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トヨタ系メーカー勤務10年。設計開発5年+営業5年の経験をもとに、製造業・自動車業界の基礎知識やトヨタ流の考え方を、新入社員の方々向けにも分かりやすく解説しています。

この記事でわかること
・JIS規格に基づく特殊鋼(S-C・SCM・SKD・SUS・SUP・SUJ材)の特徴
・自動車部品への具体的な用途と選定理由
・鋼材記号(SCM415Hなど)の読み解き方や覚え方
・合金元素が材料に与える効果

JISに基づく「普通鋼」の個別解説記事はこちら

JISに基づく「普通鋼」と「特殊鋼」の違いについて解説した記事はこちら

実務でのポイント:
JISでは普通鋼に対しては、「JIS G 3xxx」と「G+3から始まる番号」が割り振られていますが、特殊鋼は「JIS G 4xxx」と「G+4から始まる番号」が振られています。そのため、規格番号のみでも「普通鋼」か「特殊鋼」か判別することが可能です。

特殊鋼とは?

特殊鋼(Special Steel)とは、普通鋼に「合金元素」を添加し、炭素を含む「化学成分量」を厳密に管理した鋼材のことで、熱処理が行われることが最大の特徴です。

特殊鋼において、添加される主な金属元素とそれぞれの効果は、以下のようになっています。

元素 主な効果 注意点
C(炭素) 強度・硬さの“土台”
焼入れで硬化しやすい
靭性・溶接性の低下
Cr(クロム) 焼入性の向上
強度・耐摩耗性の向上
加工性・靭性の低下
Mo(モリブデン) 焼戻し軟化への抵抗性UP
焼戻し脆性を抑える
コストが高い
加工性・靭性の低下
Ni(ニッケル) 靭性・焼入性の向上
(大型部品でも焼入れ可)
コストが高い
Mn(マンガン) 焼入性・強度の向上 靭性の低下

そんな特殊鋼は先述した通り種類が膨大ですが、実務で押さえておくべき主要な分類は、この4種類です。

  • 機械構造用炭素鋼(S-C材)
  • 機械構造用合金鋼(SCM材など)
  • 工具鋼(SKD材など)
  • ステンレス鋼(SUS材)

機械構造用炭素鋼(S-C材):JIS G 4051

最も基本的な特殊鋼です。特殊な合金元素は含みませんが、普通鋼(SS400など)よりも不純物が少なく、炭素量が細かく規定されています。そのため、焼入れ・焼戻しによって硬さを出せたり、炭素含有量が低ければ溶接部にも使用が可能です。

代表鋼種:S45C

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)S45C
Steel(鋼)
45(炭素含有量:0.45%前後)
Carbon(炭素)

特徴:
炭素量(0.10%〜0.58%)によってS10C〜S58Cまで分類されます。炭素含有量が0.30%以上であれば、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって硬さを持たせることができます。

用途例:
高い強度を求めない、シャフト・ボルト・ピンなど

機械構造用合金鋼(SCM材など):JIS G 4052(一部 G 4202)

機械構造用合金鋼は、S-C材にNi(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)などの合金元素を添加し、「強度」「靱性(粘り強さ)」「焼入れ性」をさらに高めた鋼材です。

実務での材料の選定ポイント:
S-C材(炭素鋼)では部品の大きさによって、焼入れ・焼戻しを行なっても、中心部まで焼きが入らない場合があります(これを質量効果と呼びます)が、合金元素を添加することにより、焼入れ性を改善することができます。

なお、通常の機械構造用合金鋼は「JIS G 4053」で規定されていますが、自動車部品においてはJIS G 4052:焼入性を保証した構造用鋼鋼材(鋼材記号の末尾にHが付く)」が主に使用されるため、本記事でも「JIS G 4052」について解説をします。

鋼材名の覚え方:
H鋼の最大の特徴は、「成分」だけでなく「ジョミニー試験」の結果から焼入れ性を保証している点にあります。「H」は “Hardenability”(焼入れ性) の頭文字から取られています。

以下に、主要な合金鋼の特徴と用途を解説します。

① クロムモリブデン鋼(SCM)

現在の自動車業界で最もメジャーな合金鋼で、クロム(Cr)で焼入れ性を高め、モリブデン(Mo)で粘り強さ(靭性)を高めています。

特徴:
・加工性、溶接性、熱処理特性のバランスが非常に優れている
・モリブデンの効果で、熱処理時の脆化(もろくなること)が起きにくい

代表鋼種:SCM415H・SCM435H・SCM440H

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)SCM415H
Steel(鋼)
Chromium(クロム)
Molybdenum(モリブデン)
4 : 主要な合金元素の配合比率を表すコード
15(炭素含有量:0.15%前後)
H:焼入れ性(ジョミニー試験値)を保証した「H鋼」

用途例:
・高強度ボルト(強度区分10.9以上)
・シャフト(ドライブシャフト・クランクシャフト)
・ギア(トランスミッションギア・ディファレンシャルギア)

② クロム鋼(SCr)

クロム(Cr)のみを添加した鋼材です。炭素鋼よりも焼入れ性は良いですが、SCMには劣ります。

特徴:
・SCMより安価だが、性能もその分落ちる
・小型の部品や、そこまでの高強度が求められないケースで使用される

代表鋼種:SCr415H・SCr420H・SCr440H

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)SCr415H
Steel(鋼)
Chromium(クロム)
Molybdenum(モリブデン)
4 : 主要な合金元素の配合比率を表すコード
15(炭素含有量:0.15%前後)
H:焼入れ性(ジョミニー試験値)を保証した「H鋼」

用途例:
・高強度ボルト(強度区分10.9以上)
・ピストンピン
・カムシャフト

実務での「SCM材」との使い分け:
よりハイスペックな「SCM材」と比較すると焼入れ性は劣るため、超高強度が求められる部品や、肉厚で芯まで焼きが入りにくい大型部品には「SCM材」が使用されます。
それ以外でコストを抑えたい場合や、小型部品には「SCr材」が選定されます。

③ ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)

ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)の3元素をすべて含んだ、”最強クラス”の合金鋼です。
特に「SNCM439H」は最も知名度の高いグレードで「通称:サンキュー」と呼ばれます。炭素量が約0.39%と高く、さらにニッケルも約1.60~2.00%と多量に含んでいるため、圧倒的な硬度と靱性(粘り強さ)を誇ります

特徴:
・非常に靱性が高く、衝撃に強い
・深くまで焼きが入るため、大型のシャフトなどの部品でも中心まで強度を確保できる
・ニッケルが高価なため、コストが非常に高い

代表鋼種:SNCM220H・SNCM420H・SNCM439H

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)SNCM439H
Steel(鋼)
Nickel(ニッケル)
Chromium(クロム)
Molybdenum(モリブデン)
4: 主要な合金元素の配合比率を表すコード
39(炭素含有量:0.39%前後)
H:焼入れ性(ジョミニー試験値)を保証した「H鋼」

用途例:
・大型トラックやSUVのシャフト(ドライブシャフト・クランクシャフト)
・大型トラックやSUVのギア(トランスミッションギア・ディファレンシャルギア)
・等速ジョイント(CVJ)のアウターレース

④ ニッケルクロム鋼(SNC)

SNCMの前身となる鋼種ですが、焼戻し脆性という欠点があるため、現在はほとんど使用されません

特徴:
・ニッケルとクロムの効果で強靭
・モリブデンが含まれていないため、「焼戻し脆性」という欠点がある
・熱処理後の冷却速度管理が難しく、現在ではほとんど使用されない

代表鋼種:SNC631H・SNC815H

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)SNC631H
Steel(鋼)
Nickel(ニッケル)
Chromium(クロム)
6: 主要な合金元素の配合比率を表すコード
31(炭素含有量:0.31%前後)
H:焼入れ性(ジョミニー試験値)を保証した「H鋼」

⑤ マンガン鋼(SMn)/ ⑥マンガンクロム鋼(SMnC)

ニッケルやクロムを使う鋼種よりも安価ですが、わざわざこの鋼種を採用するコストメリットが少ないため、こちらも自動車部品においては使用されることは少なくなっています。

特徴:
マンガンの効果で、焼入れ性が良好
安価だが、コストメリットが少ないため、ほとんど使用されない

代表鋼種:SMn443H・SMnC443H

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
例)SMnC433H
Steel(鋼)
Manganese(マンガン)
Chromium(クロム)
4: 主要な合金元素の配合比率を表すコード
33(炭素含有量:0.33%前後)
H:焼入れ性(ジョミニー試験値)を保証した「H鋼」

⑦ アルミニウムクロムモリブデン鋼(SACM):JIS G 4202

上記の①〜⑥は「JIS G 4052」にて規定されている鋼材でしたが、この「⑦アルミニウムクロムモリブデン鋼」だけは「JIS G 4052」ではなく「JIS G 4202」に分類されます。
熱処理の一種である「窒化処理」専用に開発された特殊な鋼材です。

特徴:
・他の機械構造用合金鋼と異なり、アルミニウム(Al)を0.70〜1.20%含んでいる
・窒化処理により、表面に極めて硬い窒化アルミニウム層を形成し、ダイヤモンドに近い硬度と耐摩耗性を得られる
・熱による寸法変化が極めて小さく、高精度な部品に適している

対象鋼種:SACM645のみ

鋼材名は以下のように読み解くことができます。
・Steel(鋼)
Aluminum(アルミニウム)
Chromium(クロム)
Molybdenum(モリブデン)
6: 主要な合金元素の配合比率を表すコード
45(炭素含有量:0.45%前後)

用途例:
・シリンダーライナー
・ステアリングラックバー

工具鋼(SKD材など):JIS G 4401 / 4403 / 4404


工具鋼は、製品そのものには使用されませんが、自動車部品の生産において、「切削工具」や「金型」として使用される、非常に硬い鋼材です。

① 炭素工具鋼(SK材):JIS G 4401

位置決めピンや測定用ゲージなどとして使用される、最も基本的な工具鋼鋼材です。鉄(Fe)と炭素(C)を主成分とし、高価な合金元素(ニッケルやクロムなど)をほとんど含みません。

代表鋼種:SK85(旧SK5)・SK105 (旧SK3)

② 合金工具鋼(SKD材など):JIS G 4404

炭素工具鋼(SK材)に、クロム(Cr)・モリブデン(Mo)・タングステン(W)・バナジウム(V)などの合金元素を添加し、「耐摩耗性」「耐熱性」を向上させたものです。用途により大きく3つに分類されます。

1. 切削・耐衝撃用(SKS)

  • 記号:SKS (Steel Kogu Special)
  • 特徴:SK材に少量のタングステンやバナジウムを添加し、”切れ味”を高めている
  • 代表鋼種:SKS2・SKS5・SKS8
  • 用途例:タップ・ドリル

2. 冷間金型用(SKD)

  • 記号:SKD (Steel Kogu Die)
  • 特徴:常温でのプレス加工用
  • 代表鋼種:SKD11
  • 用途例:プレス金型・転造ダイス

3. 熱間金型用(SKD / SKT)

  • 記号:SKD (Steel Kogu Die) / SKT (Steel Kogu Tanzou)
  • 特徴:高温になっても硬さが低下しにくく、ヒートチェック(熱亀裂)に強い
  • 代表鋼種:SKD61・SKT4
  • 用途例:ダイカスト型・鍛造型

③ 高速度工具鋼(SKH材):JIS G 4403

高速の切削に耐えることができる工具鋼です。多量のクロム(Cr)・モリブデン(Mo)・タングステン(W)・バナジウム(V)・コバルト(Co)を含有します。

  • 記号:SKH (Steel Kogu High-speed)
  • 特徴:摩擦熱(約600℃)でも軟化しないため、高速での切削が可能
  • 代表鋼種:SKH51・SKH55
  • 用途例:タップ・ドリル・エンドミルなど

数字飛びの謎:
工具鋼は現在「JIS G 4401 / 4403 / 4404」にて規定されており、「JIS G 4402」がないのか?と疑問に思った方もいるかもしれません。
この「JIS G 4402」はかつては特殊工具鋼として規定されていましたが、「JIS G 4404」の合金工具鋼が1956年に規定された際に、入れ替わりで廃止になったため、現在は使用されていないのです。

ステンレス鋼(SUS材):JIS G 4303 / G 4304 / G 4305

ステンレス鋼は、鉄にクロム(Cr)を10.5%以上添加することで、錆びにくくした合金鋼です。

JIS規格の3種(G 4303 / G 4304 / G 4305)は、「成分」ではなく「形状製造プロセス」によって分類されています。

それぞれの特徴と、自動車部品としての具体的な用途は以下のようになっています。

  • JIS G 4303(ステンレス鋼棒):シャフトやボルトなど
  • JIS G 4304(熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯):フランジやステーなど
  • JIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯):マフラーやモールなど

3桁の数字の由来:
SUS○○○の数字の部分は、メインとなる鉄鋼の金属組織(成分系統)を表しており、これはアメリカのAISI規格の番号をそのまま採用しています。

番号 金属組織 主な特徴 自動車での代表例
300番台 オーステナイト系 ・磁石につかない
・耐食性が最も高い
・Niを含むため高価
SUS304
(内装、高機能部品)
400番台 フェライト系 ・磁石につく
・安価(Niを含まない)
・熱膨張が少なく、熱に強い
SUS430, SUS409L
(マフラー、モール)
400番台 マルテンサイト系 ・磁石につく
・焼入れで硬くなる
・強度は高いが錆びやすい
SUS410, SUS420J2
(ブレーキディスク)
600番台 析出硬化系 ・特殊な熱処理で極硬になる
・アルミ並みの軽さと強度
SUS630
(シャフト、エンジン部品)

ばね鋼(SUP材):JIS G 4801

ばね(スプリング)の材料として使用するために、弾性力と繰り返し荷重に対する耐久性を極限まで高めた特殊鋼です。自動車部品においては、サスペンション周りを中心に広く使用されています。

  • 記号:SUP (Steel Use Spring)
  • 特徴:シリコンを添加することで、耐久性(へたりにくさ)を向上させている
  • 代表鋼種:SUP6・SUP7・SUP10
  • 用途例:コイルスプリング・トーションバーなど

軸受鋼(SUJ材):JIS G 4805

軸受(ベアリング)という高速回転する部品のために専用設計された特殊鋼で、硬度を引き出すために、炭素量とクロム量が多くなっていることが特徴です。
2019年の改正により、国際規格(ISO 683-17)との整合性が図られ、非金属介在物(不純物)の管理基準などがより明確化されています。

  • 記号:SUJ (Steel Use Jikuuke)
  • 特徴:炭素を約1.0%・クロムを約1.45%も含んでいるため、焼入れ後の硬さが700HV以上にもなり、耐摩耗性に非常に優れている
  • 代表鋼種:SUJ2・SUJ3・SUJ5
  • 用途例:ハブベアリング・トランスミッションベアリングなど

実務での「SCM材」との使い分け:
自動車部品(ギアやシャフト)では、SCM415なども軸受として使用する場合がありますが、以下の違いがあります。
SCM415(浸炭焼入れ)
→表面は硬いが、内部は靭性が高いため、衝撃荷重がかかるギア一体型の軸受部などに使用
SUJ2(ズブ焼き)
→表面・内部どちらも硬いため、面圧が非常に高い転動体(ボールやローラー)に使用

まとめ

今回は、自動車部品や機械設計において避けては通れない「特殊鋼」について、JIS規格の種類やそれぞれの特性、そして実務での使い分けについて解説しました。

「普通鋼」との違いを考えたときの一番のポイントは、「特殊鋼」では化学成分が厳密に管理されており、焼入れ・焼戻し」などの熱処理を行うことで真価を引き出すことができるということです。

今回はかなり多岐にわたる鋼材・規格を解説したため、一度で理解をすることは難しいと思います。
そのため、本記事をブックマークして、いつでも読み返せるようにしておいていただけると幸いです。

JISに基づく「普通鋼」の個別解説記事はこちら

JISに基づく「普通鋼」と「特殊鋼」の違いについて解説した記事はこちら

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