はじめに

「S45Cってよく聞くけど、SS400との違いを説明しろと言われると分からない」
「焼入れで硬くなるのは知ってるけど、図面にどう書けばいいの?」
配属されたばかりの設計者の方なら、ここで手が止まるのは自然です。
私も“なんとなく分かったつもり”のまま進めて、あとで焦る人を何度も見てきました。
この知識が曖昧なまま材料選定や発注をすると、後工程で「割れ」「変形」「寸法が入らない」といったトラブルが起きやすく、最悪の場合は、作り直しによるコスト増や納期遅延に繋がります。
では、それを防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。
この記事では、教科書的な定義にとどまらず、現場で必要な知識を明日から使える形で解説します。
読み終わる頃には「結局どうすればいいの?」が言葉にできます。

トヨタ系メーカー勤務10年。設計開発5年+営業5年の経験をもとに、製造業・自動車業界の基礎知識やトヨタ流の考え方を、新入社員の方々向けにも分かりやすく解説しています。
SS400とS45C、特徴と違いは?
SS400(一般構造用圧延鋼材)とS45C(機械構造用炭素鋼鋼材)は、鉄鋼材料の中で最も代表的でよく使われる2種類ですが、主に「①熱処理ができるか」と「②溶接できるか」という点で大きな違いがあります。
ワンポイント:
性質の違いのみではなく、JISにおける分類においても、SS400は「普通鋼」、S45Cは「特殊鋼」といった区分の違いがあります。
↓JISに基づく「普通鋼」の個別解説記事はこちら
↓JISに基づく「特殊鋼」の個別解説記事はこちら
1. 熱処理(焼入れ)ができるかどうか
これが最大の違いです。
SS400:
炭素量の規定がされていないため、焼入れをしても硬くならない可能性があります。そのため、基本的には生のまま(あるいは応力除去程度で)使います。
S45C:
炭素を0.45%程度含んでいるため、「焼入れ(熱処理)」をすることで非常に硬くすることができます。摩耗に耐える必要がある「軸」や「ギア」に使われます。
↓「焼入れ・焼戻し・焼きなまし」の解説記事はこちら
2. 強度の保証内容
JIS規格での保証内容が異なります。
SS400:
「引張強さが400MPa以上であること」を保証しています
(成分の詳細な規定はありません)
S45C:
「炭素量が0.45%前後であること」を保証しています
(結果として強度は出ますが、強度数値そのものの保証ではありません)
3. 溶接のしやすさ
SS400:
炭素が少ないケースが多いので、急熱急冷されても硬化しにくく、溶接しても割れにくいです。
S45C:
炭素が多いため、溶接時の熱で周辺が勝手に焼きが入って硬くなり、「溶接割れ」を起こしやすいです。予熱などの管理が必要になるため、一般的に溶接部には使用しません。
SS400とS45C-選び方のガイドライン
SS400を選ぶケース:
- 溶接をして組み立てるフレームや架台を作る場合
- とにかくコストを抑えたい場合
- プレートやカバーなど、特別な硬さや強度が不要な部品の場合
S45Cを選ぶケース:
- シャフト、ギア、ピン、ボルトなど強い力がかかる部品の場合
- 表面を硬くして、削れないようにしたい(耐摩耗性が必要な)場合
迷った時の「3つの判断軸」
- 強度が欲しい→YESならS45C
- 摩耗させたくない→YESならS45C
- 加工後に熱処理をする予定→YESならS45C
- 溶接をしたい→YESならSS400
S-C材(機械構造用炭素鋼)とは?定義と“数字”の意味
S45Cの「45」は何を指す?
S-C材(機械構造用炭素鋼)は、炭素(Carbon)を約0.1〜0.6%含む鋼の総称です。その代表格がS45Cで、S○○Cの○○は炭素含有量を表します。
例) S45C
- S = Steel(鋼)
- 45 = 炭素量 0.45%(0.42〜0.48%)
- C = Carbon(炭素)
炭素量が増えるほど、焼入れで硬さを向上させやすいというメリットがあります。
一方で、硬さとトレードオフになるのが靱性(粘り強さ)と加工性です。炭素が多すぎると硬くはなりますが割れやすく、削りづらくなります。
S45CはS-C材の中でもこのバランスが良く、「迷ったらS45C」になりやすい理由がここにあります。
材料選定の注意ポイント:
焼入れで硬度を上げることができるのは、S28Cから(炭素含有量0.28%以上)です。
それ以下の炭素含有量では、SS400と同様に、焼入れをしても硬さは出ません。
↓JISに基づく「特殊鋼」の個別解説記事はこちら
S45Cの主要な成分一覧(JIS規格)
| 元素 | 記号 | 含有率(%) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 炭素 | C | 0.42 ~ 0.48 | 硬さや強度を決定する主要素 |
| ケイ素 | Si | 0.15 ~ 0.35 | 脱酸剤、強度向上 |
| マンガン | Mn | 0.60 ~ 0.90 | 焼入れ性、靭性向上 |
| リン | P | 0.030 以下 | 不純物 |
| 硫黄 | S | 0.035 以下 | 不純物 |
熱処理の目的:なぜ焼入れ・焼戻しをするのか
S45Cでは「焼入れ」と「焼戻し」はセットで行われるのが基本であり、この一連の工程を「調質」と呼びます。
↓「焼入れ・焼戻し」の解説記事はこちら
以下に、なぜこの2つが必要なのか、その理由と効果を分かりやすく整理します。
焼入れ・焼戻しをする理由
この処理を行う最大の理由は、「硬さ」と「靱性(粘り強さ)」という、相反する2つの性質を両立させるためです。
S-C材(機械構造用炭素鋼)は、その名の通り機械部品(シャフト・ギア・ボルトなど)として使用され、これらには強い力がかかっても変形しない「硬さ」と、衝撃を受けても折れない「粘り強さ」の両方が必要となります。
しかし、そのままでは硬度が足りず、摩耗したり変形したりしやすいです。
かといって焼入れのみを行うと、硬くはなりますが、ガラスのように脆(もろ)く、衝撃で割れてしまいます。
そこで、焼入れをしてから焼戻しもセットで行います。
そうすることで、「硬くて折れにくい」理想的な金属組織(ソルバイト組織など)を作り出すことができるのです。
それぞれの工程の役割
① 焼入れ(Quenching):限界まで硬くする
鋼を赤くなるまで加熱(約850℃〜900℃)し、水や油で急冷する工程です
これにより、「マルテンサイト組織」と呼ばれる非常に硬度に優れた組織になります。

- 非常に硬くなる反面、「靭性(粘り)」が失われて非常に脆くなる
- 急冷による「内部応力(ひずみ)」が溜まり、放置すると割れが発生することがある
② 焼戻し(Tempering):粘り強さを与える
焼入れした鋼を、変態点以下の温度(S45Cでは通常550℃〜650℃程度)で再加熱し、冷やす工程です。
これにより、「ソルバイト組織」と呼ばれる、硬度と靱性を兼ね備えた組織へ変化します。

- 靭性(粘り強さ)の回復: 行き過ぎた硬さを少し下げ、衝撃に耐える「粘り強さ」を与える
- 内部応力の除去: 焼入れで溜まったひずみを取り除き、割れを防ぐ
- 組織の安定化: 寸法変化や経年劣化が起きにくい安定した組織になる
焼入れ・焼戻しの具体的な効果
この「焼入れ・焼戻し(調質)」を行うことで、機械部品として以下の不可欠な特性が得られます。
- 降伏点の向上:材料が変形し始める限界値が高くなる。 大きな力がかかっても変形しにくい。
- 疲労強度の向上:繰り返し荷重に対する強さが増す。 回転軸やギアなど、繰り返しの力がかかる部品が長持ちする。
- 耐摩耗性の向上:表面硬度が高くなる。 擦れる部分が削れにくくなる。
- 衝撃値の向上:衝撃エネルギーを吸収できる。 急な衝撃が加わっても、破損・破断しにくい。
ポイント:
「硬ければ硬いほうが良い」という単純な話ではなく、硬さと粘りのバランスを取る-ここが熱処理の重要なポイントです。
補足:機械的性質の「硬さ」の単位
ものづくりにおいて「硬さ」を表す際の代表的な単位は主に以下の3つです。
- HRC(ロックウェル)硬さ:焼入れ品の硬度指示で定番(例:HRC 45〜50)
- HB(ブリネル)硬さ:素材や調質材などでよく使われる
- HV(ビッカース)硬さ:薄物や表面処理層など、細かい評価向き
加工→熱処理→仕上げの「順番」
S45C部品の加工の基本フローは以下の通りです。
①荒加工(旋盤・マシニング):形状を作る。このとき、仕上げ代(余分)を残す。
②熱処理(焼入れ・焼戻し):組織変化で体積変化・歪みが出て、寸法がズレる。
③仕上げ加工(研削):仕上げ代を削って正寸にする。
よくあるトラブルと対策:
完成寸法で熱処理に出すと、変形で寸法NGになってしまうことが多いです。
再加工もできずスクラップになりやすいので、必ず「熱処理変形+α」の仕上げ代(余分)を確保しましょう。
※取りしろの目安は、形状・サイズ・硬度で変わります。
発生しやすいトラブルと解決策
割れやすい条件トップ5
S45Cは加工性に優れていますが、以下の条件が重なると、割れやすくなります。
- 鋭角形状:Rのない段付き部、キー溝
- 急激な肉厚変化:薄肉と厚肉の境目
- 過度な硬さ要求:S45Cの一般的な到達域を超える硬度要求
- 冷却が激しすぎる:形状に対して急冷しすぎる(例:水冷)
- 加工ストレス残り:強い切削や溶接の残留応力を抱えたまま焼入れ
設計のポイント:
「どれか1つ」の条件より、「複数同時」の条件がはるかにリスクが高いです。
設計レビューでは、上記5項目を”チェックリスト”として使用すると良いでしょう。
変形しやすい条件トップ5
仮に上記のように割れなくても曲がって使えないことがあります。
- 長尺物:細長いシャフトは曲がりやすい
- 薄板:反り・波打ちが出やすい
- 片側加工:片面だけ大きく削り取った形状
- 偏心形状:重心バランスが悪いもの
- セットの影響:炉内の吊り方・置き方
設計のポイント:
シャフトなどの長尺物は、「曲がる前提」で研削代を多めに取るのが定石です。
まとめ
SS400とS45Cの最大の違い
SS400とS45Cはどちらも自動車部品においてよく使用される材料ですが、「①熱処理(焼入れ・焼戻し)できるか」と「②溶接できるか」という点が最も大きな違いとなります。
・SS400(一般構造用圧延鋼材):炭素量が少なく焼入れ効果がないため、基本的には生のまま使用します。溶接性はS45Cより優れています。
・S45C(機械構造用炭素鋼):炭素を約0.45%含み、焼入れ・焼戻しを行うことで「硬さ」と「靭性(粘り強さ)」を持たせることができます。一方で溶接時にも余熱で不要な硬さが出てしまい、割れに繋がるため、溶接部には使用しません。
材料選定のガイドライン
・SS400を選ぶケース:溶接が必要・コスト優先・特別な強度が不要なプレート類に使用する場合
・S45Cを選ぶケース:強度が必要・摩耗させたくない・軸やギアなどの重要部品に使用する場合
明日から使えるS45Cの簡単チェックリスト
- S45Cを採用する目的は明確か?(SS400でダメな理由は強度?耐摩耗性?)
- 形状は安全か?(鋭角コーナーにRはある?極端な薄肉はない?)
- 仕上げ代(余分)はあるか?(変形を見越して残している?)
このチェックを通せば、熱処理トラブルはかなり減らせます。
次回の図面で、「ここ割れないかな?」と一度立ち止まってみてください。
たった一呼吸で、品質もコストもぐっと良くなります。
↓「焼入れ・焼戻し」の解説記事はこちら
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