本記事では、金属材料の基本特性である「弾性変形」と「塑性変形」の違いについて、優しく解説します。
弾性変形とは?
「弾性変形」とは、力を加えると形が変わるけれど、その力を取り除くと元の形に戻る性質のことを指します。
イメージとしては、ゴムやばねのようなものがわかりやすいでしょう。
「弾(はず)む性質」という漢字の通り、外力を加えられても、反発して戻ろうとする力を持っている状態です。
今ばねを例に挙げましたが、硬いと思われている「金属」も、全てこのゴムのような性質を持っています。
塑性変形とは?
一方、「塑性(そせい)変形」とは、外力を加えられて変形した後、力を取り除いても元の形に戻らず、変形したままの形が残る性質のことを指します。
イメージとしては、粘土のようなものがわかりやすいでしょう。一度指で押すと、凹んだまま元には戻りません。
金属も、ある限界を超えて強い力を加えると、この粘土のようにグニャッと曲がったまま戻らなくなります。一見、金属が曲がったまま戻らないのは「壊れた」からのようにも見えますが、モノづくりでは、この「形が変わったまま固まる」という性質こそが、製品の形を作るためには非常に重要になっています。
なぜ金属は変形するのか?ミクロの世界でのイメージ
では、なぜ金属は「戻ったり(弾性)」「戻らなかったり(塑性)」するのでしょうか?
その謎を解くために、少しだけミクロの世界で何が起きているかを解説します。
弾性変形のメカニズム:「原子の距離が伸び縮みする」
金属などの材料は、原子同士が結合力(バネのような力)で繋がって整列しています。
1. 力を加える: 原子同士をつなぐ「バネ」が引き伸ばされます。原子の位置はズレますが、原子同士のつながりは切れません。
2. 力を抜く: 伸びていた「バネ」が縮み、原子は元の位置に戻ります。
原子同士の結合は切れておらず、ただ距離が伸び縮みしているだけなので、元に戻ることができるのです。
塑性変形のメカニズム:「原子が滑って移動する」
塑性変形は、弾性変形の限界(”降伏点”といいます)を超えて、さらに強い力を加えたときに起こります。
1. 強い力を加える: 原子同士をつなぐバネが耐えきれなくなり、原子の列ごと「ズルッ」と滑ります。
2. つなぎ変わる: 滑った原子は、元々の隣の原子ではなく、新しい隣の原子と手をつなぎ直します。
3. 力を抜く: バネの伸びは戻りますが、原子は別の原子と結合してしまっているため、元の位置には戻れません。
原子の並びそのものがズレてしまったため、もう元の形には戻ることができないのです。
ここでもう一つ押さえておきたいポイントは、塑性変形は「壊れた」ときだけに起きるわけではないということです。
むしろ、金属加工では意図的に塑性変形を利用して形を作っています。
例としては、
- 圧造で線材を変形させ、ボルトを作る
- プレスで鋼板を押し付け、自動車のボディを作る
これらはすべて、金属の塑性変形をうまく利用して、狙った形にしています。
つまり、塑性変形には、
- 加工・成形のために、意図的に起こす塑性変形
- 壊れて発生する、不具合としての塑性変形
の両方がある、ということです。
弾性変形と塑性変形の違いまとめ
| 項目 | 弾性変形 (Elastic) | 塑性変形 (Plastic) |
|---|---|---|
| 一言でいうと | バネのような変形 | 粘土のような変形 |
| 力を抜くと | 元に戻る | 元に戻らない(形が残る) |
| 原子の動き | 原子間の距離が変わるだけ | 原子の列が滑って移動する |
| 主な用途 | バネ、クッション、衝撃吸収 | プレス加工、鍛造(形を作る技術) |
補足:降伏点とは?
先ほど、弾性変形の限界(降伏点)を超えると塑性変形が起きると説明しましたが、それをグラフで表したものが下記になります。

これは「応力-ひずみ曲線」と呼ばれます。

1. 縦軸と横軸の意味
まず、グラフの「軸」が何を表しているかを押さえましょう。
• 縦軸:応力(σ)
これは、材料にかかる「負荷の強さ」です。上にいくほど、強い力で引っ張られていることを意味します。
• 横軸:ひずみ(ε)
これは、材料が元の長さからどれくらい「伸びたか(変形したか)」です。右にいくほど、たくさん伸びていることを意味します。
2. 大きな2つの領域(オレンジと青)
グラフ上部の矢印で示されている2つの領域は、材料の性質が大きく変わる境界線です。
• 弾性領域(オレンジ色)
“ばね”のような状態です。力を加えると伸びますが、力を抜くと元の形に戻ります。
• 塑性領域(青色)
“粘土”のような状態です。ここに入ると、もう元の形には戻りません。力を抜いても、伸びきったまま変形が残ります。
3. グラフの読み方
グラフの線(青い線)を左下から順に追っていくと、各ポイントで起きる現象が理解できます。
① 弾性率(グラフの傾き)
最初の直線部分です。この直線の傾きを「弾性率(ヤング率)」と呼びます。
傾きが急なほど、硬くて変形しにくい材料です。
② 上降伏点・下降伏点
直線が終わり、ガクガクと波打つ部分です。
• 上降伏点:ここを超えると、急に抵抗力が弱まり、力を加えなくても勝手に伸び始めます。「弾性領域」から「塑性領域」へ切り替わる瞬間です。
• 下降伏点:降伏現象がいったん落ち着き、ここから再び材料が耐えようとして、力を加えないと伸びなくなっていきます。
③ 引張強度(ひっぱりきょうど)
グラフの一番高い山頂の点で、この材料が耐えられる「最大の強さ」を表します。
ここを過ぎると材料の一部が細くくびれ始め(ネッキング)、強度が次第に落ちていきます。
④ 破断伸び(点X)
グラフの終点です。
材料が「ちぎれる(破断する)」瞬間です。ここまでの横軸の長さ(下向き矢印↓で示されているX座標)が、壊れるまでにトータルでどれだけ伸びたかを表しています。


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